僕はこの街の秘密を知ってしまった
横断歩道を青信号で渡り続けていると
いつか必ずあの摩天楼に迷い込んでしまう
大人達を魅了してやまない
とても寂しいあの場所に

父さんは夢の為だと言って
ある朝家を出たきり帰ってこない
そして母さんも愛の為に行ってしまった
背広を着た後ろ姿も　美味しかったはずの料理の味も
今はもう殆ど思い出すことができない

僕は秘密を知ってしまったから
横断歩道を赤信号で渡ってみようと企んでいる
想像するだけで足が震えるけれど
まだ夢も愛も知らない未熟な僕ならば
きっと渡りきることができるはずだから

■作者メッセージ
摩天楼(まてんろう)
殆ど(ほとんど)
です。