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父のウイルスと大日本
私の家はどうしてここまで変わっているのかと聞いてみたけれど、誰も答えてくれない。私の家だけ少し他の家と異なっていて、それで一家心中なんてことを私の母は望んでいるらしい。
 ある部屋で何かの実験をしていたらその部屋に入れる人間だけが、ウイルスに感染した。ある部屋とは古い私の父の部屋であった。それではそれが外に持ち出されることはなかったのかと言われれば、それはないと答えることができる。どうにも外は遠かった。家は貧乏だから小さいのだけれど家の前に門があってそれが外出を拒んだ。
 とにかく、ウイルスの所為でみんな狂ってしまった。
 父は私たちに挨拶することを強制した。挨拶のみが家族としての建前を保ち、しかしそれは今にも崩壊しそうであった。シロアリは絢爛な装飾を実に巧妙に腐らせていった。
 父は自身のウイルス制作を誇っていた。一心不乱に研究していた。
 ウイルスに感染した構成員は父への不信感を募らせた。しかし父をスケイプゴートとする結束は生まれなかった。そう、その時すでに遅く、私や母、妹はそれぞれが実験室に閉じこもりウイルスを作っていた。しかし真実はこれと異なり、実際に作っていたのは父だけであってそれ以外の構成員の制作というのはそれぞれの気狂いじみた妄想あった。思うにその妄想さえ父のウイルスの仕業であり、やはりあやつの所業は到底許されるものでない。
 その絶望に残されたのは一本の包丁であった。ウイルス空間をつんざき進むには包丁もろとも特攻するしかない。無論殺人という手段しか残されていなかった。しかしこれは父の殺害という目的には効果的だが、自殺行為でもある。部屋を開けレバ数億数兆のウイルスどもが襲いかかってくるだろう。
 私は長男としてこの姓を守らねばならない。私が特攻するわけにはいかない。妹よ行け!姓のため、先祖のためこの高貴な遺伝子を後世に伝えるため!あのキチガイ突然変異劣等人を殺せ!
 しかし特攻隊は無惨にもその後、消息を絶つ。母型特攻隊も消息を絶つ。まさかのまさか。彼奴等は失敗したのだ!なんという辱め。非人どもめが。
 どうしようか?

 その四日後だった。原爆が落とされた。エノラゲイは腹を壊してワイキキで泳いでいた。そう、戦闘機に母と妹。
 彼奴等はセックスとチョコレートに釣られて降伏したのだ!
 クソッタレ。
21/09/12 16:31更新 / 很庸太郎



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