ポエム
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だから、川は流れていく
今までの僕を忘れた。

晴れやかな空。
陰影と光輝とを織り交ぜた雲。
渾々とわき流れる小川…。

違う。
美しさの、「正解」が欲しいんじゃないんだ。

僕が、僕が一番心を揺れ動かされるもの…。
何だった?

見出そうとすればするほど、
照り映える常緑と、
眩しい花々と、
全面ガラス張りの近代的建築と、
よく磨かれたレンガが、
目に飛び込む。

僕の心の「正解」はなんだった…。

俯きながら歩く僕の横を、大型トラックが通る。
重たく濁った排気ガスが鼻を突く。
脇目に、鈍く回転するホイール。

これだ。
危ないところだった。

本に被った埃と、
謎の物体で覆われた排水溝の角と、
油で粘ついたチェーンだ。

読まれずに、次に開かれることを待っている歴史。
鉄網の下で、雨垂れに養われた時間。
僕を遠くに運んだその結果。

多くの思念が撚り集まっている。
それらを動かしてきたのは、人の意思で、
人のために。他者のために。
この想いを感じ取る。

そうして、ひらめきの電流は、骨肉に渡る。

葉の、不均整な葉脈を見出し、
花びらの、虫食いを見出し、
窓ガラスの、水垢を見出し、
レンガの、不純物を見出す。

血が巡る!

多くの人や自然の想いの潮流。
巡り巡って循環し、
だから、川は流れていく。
21/02/08 03:34更新 / 伊那秋菜



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