ポエム
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うたたちのうた








おまえは静かに
笑いながら

それは、奇跡だよ、と
呆れ返ってくれた


春の風が
すこしイヂワルだったので
桜は
振り返らずに
大切な時間を大切に過ごして
ゆらゆらと散っていった

そして死んだわけではない
また来年も
花は咲くだろう

命の祈りさえ
いつか震えてしまうことも
この黄昏のオレンジ色の街を
躓きながら、歩きながら、知っている

明日、
叶わない、正しい、夢をみた


ほんとうの正しい《正しさ》は
どこで決められているんだろう

穏やかな瞳
おまえのその瞳の奥にある
美しい樹氷、その凍てつき、
それはきっと
《正しい》ことだと信じている


ゆっくりと時間は流れゆき
そのなかで百億千億のうたたちが

そんな幸せな言葉たちが
日々平凡なこの街や
あまたのこの街のような街々の
黄昏オレンジに染まりはじめるころから
百億千億のうたたちが
産まれ、産み出され、巣立ってゆく

こんな詩なんて
いらない、と、

あまり云わないほうがいいのかもしれない
みんな、けんめいに
そこでけんめいに
云いたい心を
拙いけれども健気な言の葉に乗せて
甘くて苦い詩の大海原に揺蕩いながら
うたっているかも
しれないだろう

命の祈りだけを
殺さずに心に抱いておく
こんな小さな胸にでも

ただ、
昔話をすると、

あの頃の
夢とか希いとか光とか、
すこし
鮮やかすぎて
すこし
眩しすぎて
《キラキラ》《キラキラ》
煌めく照り返しのようで
想わず眼を瞑ってしまった
今ではもはや
もはや

それが叶わない《正しい》夢だと
知っている


ただ、
時を、止めて。


それが、
命の祈り。



おまえは静かに
笑いながら

それは、奇跡だよ、と
呆れ返ってくれた









23/06/24 10:13更新 / 花澤悠



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