かれないものは
ひとのこころが怖かったむかし
ひとの目を気にして
震えていたころ
私はすべてを蔑ろにして
死ぬまですべてを蔑ろにして
生きてゆくのだと
堕ちていったのだ
深く暗い宙そらの裂け目に
そして
静かなつよい人間になったのだ
よこしまな
悲しみを胸の底ふかくに隠しこみ
そして
すべてを蔑ろにして
生きてゆくのだと
想いこもうとして
月が檸檬に視えた夜
すべてを狂わされちまった
檸檬はあまりに清潔で
檸檬はあまりに濃密で
檸檬はあまりに潤沢で
檸檬はあまりに美味しくて
月が翳った憂いさえ
可愛い真顔に視えたから
私はたちまち背骨まで
抜かれて感じたしあわせに
このまま生きても良いのかと
怖くなったりにんまりと
笑ってたとえば泣いている
私はぜったいこのままで
いられる訳ないそんなこと
骨の髄まで知っている
だから私は泣きたくなるんだ
あゝ
みあげるときれいな月も
狂ったみたいに
泣いている
………………