月食
防波堤で
待つ
月の終わりのときを。
欠けてゆく、
まるで
過去がうしなわれるみたいに
いまはもう冷たい風が
首すじあたりから
心の中に入りこむ、
見渡すかぎりの海は闇で
あの詩人がうたったような
波間に浮かぶ人魚なんて
ひとりも視えない、
でも、悲しみも、視えない。
月が漏らしている闇が空を覆い
そこには少しキラキラする
悲しみが視える気がする、
海は、ただ波を
この白い突堤には、
重い音を立てて、
うちつづけている
だけか。
弧をえがくように欠けてゆく月が
そしていつしか消えてゆくのを
待ちつづけるのは
愚かな人のすることだから、
私はいつまでもいつまでも
愚かな顔で、
夜の空を仰ぎつづけている、
いつまでも、いつまでも。