蛇のきもちのすべて
くちびるが薄い人は
冷たい心の持ち主だと
かつて好きだった人に云われたことがある
むろん私のくちびるは
薄い
でもそのくちびるから漏れる声は
好きだと云ってくれた
光り輝く本心みたいな夢の想い出が
ただじっと動かない蛇の瞳を
悲しませるというのはどういうわけだ
上を向いて星をみあげた
白い砂浜で
花火の跡がそこここに散在していて
潮の香りの空気がなぜか
私の胸に入りたがっているみたいで
肉の身の
この痛みをいつまでも
いだきつづけるのか
心の傷の痛みもか
邪魔な嘘ってあるんだろうか?
正しいホントってあるんだろうか?
刺し違えてもいいから
抱きあいたいほどの
引けない想いを
胸の裡の扉へ深く深く刻み込んだ
ただ、いまとなっては
その人の微笑みを微かにしか
想い出せないのはなぜだろう?
円環よ、
銀の月よ、
夜の世界を照らす鮮やかな想いよ、
浜辺を歩くふたりの足元に
真白な道を整えておくれ
だからこの蛇の過去も
忘れてはいけない古い一輪の花の絵画も
そのままにしておいてはいけない
胸の裡の扉なんかも
しっかりと固く閉めなくてはならない
簡単に逃げ出さないように
忘れたくないものがあるから
たとえばこんな蛇の影のような心にも
たとえばこんな蛇の薄いくちびるにも
ほほえむ未来は残されているのだろうか