月の破片
あれからもう泣かないと決めた
あれは冬の冷たい風が強く吹く
夜の帰り道にオリオン座をみあげながら
決めたはずなのに
今夜、もう一度だけ泣きそうで
君のことなんか知らないままで
生きていきたかった
なんて、云ったりして
初めての歓びを
君に教わったり、
初めての悲しみを
君に教えてしまったり、
初めての熱量で
君を欲しがったり、
初めてのキスのとき
歯と歯が当たってしまったり、
冬がくるまえの
緑の薫りのするすこし湿った風が
僕の耳の奥深くを
優しくくすぐったから
僕の小さな胸の傷に蜜を塗ってくれた
君のあたたかい夕日のような切ない優しさも
忘れてしまわなければならなかった
のだとしても。
もう終わりだと知っていても。
僕はほんとうの意味で
心に冷たいさよならや目に痛い悲しみを
まるで月の破片みたいに
キラキラとキラキラと
降りそそいでくれる夜のことを
好きにならずにはいられない
ねぇ?
あのね、
ほんのついでに
だが
ほんとうを云っていいのなら
じつは
僕は
いまも君が好きだと云いたいんだ
いや、たぶん
いつまでも、いつまでたっても