ただの紫陽花ばかりでしたよ。
玄関まえの紫陽花は、
白く濡れてて、にっこり微笑むのでしたよ。
彼の庭には、小雨が降り、
美意識と毒とが、煌めいているのでしたよ。
紫とピンクのグラデーション。
百花の王の名前にゆれる花。
終わりかけてる無風の季節に焦りもせず、
無垢のまん丸い花がその名を呼ばれもせず、
咲いている苦しみの絶望の吐息を
全能の花の神のため息と勘違いしたのでしたよ。
一輪の紫陽花、目覚めた、とこしえの青空の下
青と黒のスーツがよく似合う
あの花が咲くような
詠み人知らずの歌があればいいので、
歌がウマイとかヘタだとか
そういう話では、ないのでしたよ。
ただ、
歌を歌う優しさのかけらのなかで、
玄関まえの紫陽花は、
白く濡れてて、にっこり微笑むのでしたよ。