悲しい水槽の街
頭が痛くなるくらい
悲しい夜。
窓の外の
夜は霧雨、
ヘッドライトがゆきすぎる。
透明な水滴をとおして
街並みを眺めている
耳に染みるような
霧雨の静かな音が聴こえる。
かすかに吹く風に
揺れる窓辺の小さな白い花。
まるで街そのものが
大きな水槽みたい、
クジラの凍えそうに冷たいため息も
エイのおなじみの涙まじりの愚痴も
いつのまにか
霧雨に吸い込まれる。
そしてこの
少し乾いた花びらの舞う世界は
どこへゆくのだろうか?
ひらひら泳ぐ
魚たちが光る海へ、
落ちて
ゆくのだろうか?
この冷たく美しい街をあざ嗤える
夢なんか
ほんとうはどこにもないんだけど。
けんめいに生きているこの街で
やわらかな風が吹く夜もある。
けれど、
ほら、
頭が痛くなるくらい
悲しい夜。
ただやわらかな風の音を聴き
綺麗な寝息で眠る君を
隣でいつまでも
眺めていたい、
そんな夢なら
いまもまだ
持っていても
いいんだろうか?