新しい匂い
ジッポには
彼の匂いがした
鼻の奥にツンと来る
真夏の煙草の焦げる音
真冬のタバコの火のあたたかさ
なんかといっしょで
なんだかオモイダシタクモナイやつ
ふたり横ならびで
テレビをみてもいないのに
ついてたから目で追ってた
たそがれの陽の射し込む
狭いワンルームで
夕方再放送の
魔女のアニメの
エンディングには
毎日心がシンとした
(あゝ、彼女もひとりぼっちなんだ)
心を読める魔法が欲しかった
あれば幸せになれたかもしれない
いや
絶対なれなかった
それは私の胸が汚れていたから
タバコなんてやめて
なん年になるだろう
少しずつ綺麗になっているのかな
それでも無理に決まっていて
はは
早々に離れてしまってよかったんだよ
ふたりがふたりして
お互いを
読めなくて
求め合うだけで
でも彼の作るカレーは好きだったな
意地みたいに大きなじゃがいもゴロゴロの
あれだけは
もう一度食べたい
かもね
罪悪感は
ないね
ただ
人生って加速してゆくんだって知ったいま
ふと
あの部屋で嗅いだ
彼のジッポの匂いが
ようやくいまになって
まるで新しいくせに懐かしい
記憶を塗り替える匂いに
なっているんだなぁって