しあわせな夜はすぎてただ風が吹く
なんの因果か、生まれ落ち
地を這いつづけ、生きてきた
血を吐きつづけ、生きてきた
なんの因果か、生きている
だれか僕を
好きになってくれた人もいた
黒いスーツがよく似合う
背の高い美人さんだった
なんて言ったか
それは忘れた
だれか僕が
この人みたいにと憧れた人もいた
真っ白で花のようによく笑う
みんなに好かれる人だった
なんて言ったか
それは忘れた
夜は
好きだな
みんな
やさしく
してくれる
帰るふるさともない僕と
仲間のように
つきあってくれる
夜は
好きだな
そしてけれどとうぜん明けない夜はなく
朝焼けは理不尽な嵐のように
僕の
まるで嘘でもつかれ
騙されているかのような
心やすらぐ
しあわせな
やさしいみんなと一緒の時間を
あっという間に
奪い去ってしまう
なんの因果か、死ねずに生きて
地を這いつづけ、生きてきた
血を吐きつづけ、生きてきた
なんの因果か、知らないふりで
因果もない朝、ただ風が吹く