ポエム
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幸福の麦畑が広がっていた


毎年、変わらない麦の唄を歌い
収穫の夜は、彼と祝杯をあげた。

風に揺らされる、広がる麦畑で
彼と初めて出逢った。

その街はずれの、長閑な麦畑が
二人の小さな聖域だった。

二人はそこではどんな話もできたし
二人はそこではどんな事でもできた。

私は愛情に飢えていて
彼は暮らしに飢えていたようだ。

彼がある日突然この街を去るまで
私は幸福なことに一生分輝いていた。

だから、今は、覆う影の寒さに震える
ただ昔を思い出す亡骸のように、

麦の唄を歌い、祝杯をあげた、あの日々は
何度泣いても戻らない、幻と知る。





20/11/18 06:24更新 / 花澤悠



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