あの娘は微笑む三日月見上げて
捨て猫をひろって帰った雪の日に叶わぬ望みがあると知らされ
若かりし眩しき夢を覚えたり『レモン哀歌』を読みて泣きぬる
その冷えた心の形をしっかりと抱きしめたいって小雨ふる夜
遠足で食べた彼女(はは)のおにぎりは冷えてたけれどあたたかかった
葡萄という漢字をソラで書ける君スマホがなければ尊敬していた
夏は来る瓶のビールをキンキンに冷やし帰宅を待つ母逝けど
割れ茶碗を傘に見立てて雨宿りする蟷螂の濡れそぼつ斧
損得でするわけではない恋のはず一人で蛍を見にゆくあぜ道
若ささえ無視するような静けさであの娘は微笑む三日月見上げて
別れ雨、伸びやかな手がひらひらと振られていたのは紫陽花の駅