4 さすらい猫と、酒場の彼女。
(さすらい猫は、魔女の魔法で
(可憐で冷たい、少女の姿で
(死ねないからだを引きずって、
(街から街へと、さすらう運命(さだめ)。
さすらい猫はさすらって、
さすらい続けてどこへ行く。
さすらい猫はお酒に強く
お酒を飲んでも変わらない。
瞳の色も黒いので、
どこまで酔ったかわからない。
さすらい猫の一晩中、
飲み続けていた武勇伝。
そんなの枚挙に暇ないけれど
さすらい猫は気にしない。
さすらい猫は気にしない。
寂しさなんか感じない。
帰る家などないことや、
帰る人などいないこと、
それが自分のあるべき姿と、
知っているので悲しくないさ。
さすらい猫が酔った時、
ハミングするので、すぐわかる。
それは可憐な童謡で、
酒場が似合う曲じゃない。
人みんなドン引き、誰もが聞かない、
けれど小さくハミング、ハミング。
なぜだか酔うと女のくせに、
かわいい女の子を口説く。
ちょっと外れたそのハミングが、
女の子たちにはウケが良く、
2人仲良くカウンターで
瞳をからます、ハイ、ホラ、落ちた。
さすらい猫は女にモテる。
女のくせに女にモテる。
素面の時の耐えていたのが
お酒が入ると寂しくなるのか、
必ず女の子を口説き、
そして必ず落としちゃう。
自分のことを『バカだから、
あたしに害は無いから』と、
本気で思って、本気でしゃべって、
本気で見つめて、本気で落とす。
見ている人を魅了する、
睫毛にたまる、涙の色とか、
背筋を伸ばして、踏ん張る姿勢が、
隣の女性の、心を焦がす。
さすらい猫は、さすらって、
知らない街を、どこまでも行く。
さすらい猫の寂しさは、
だれに言っても、楽にはなれない。
さすらい猫の悲しみが、
世界にあふれた冬の日差しを、
相手の胸に刻み込むんだ。
さすらい猫の切ない気持ちを、
ブルーな色に染め上げて、
相手の胸に刻み込むんだ。
彼女の胸に刻み込むんだ。