なぜ悲しみばかり流れるのだろう?《改》
なぜ悲しみばかり
流れるのだろう?
この街を歩く人は、
月を眺めて立ち止まる。
ひとつの透きとおった、
メロディーが流れるとき、
たえまなく紙飛行機が飛ぶ、
ビルの屋上から。
生活のリズムに合わせられない
夢の残骸が転がっている
月光のもとのイチョウの木の下に。
季節風の心はやさしいが、
私の目では神をみつけられず、
ただ眼をつむって、
祈ってしまうのだ。
キラリと光るほど冷たい
夜の街の空気を無視して
清々しく、深呼吸をする。
かたくなな、
夜の闇の、深さを知れ。
その闇に塗られた蒼色を、
やさしさで見ようとする私は、
突然、翼を、もぎ取られ、
地を這うものとなる。
傷は癒やせず、
いくつかの罪の中から、
「空を飛びたいのです」と
叶えてはいけない希望を
歌にして歌ってしまいそうになる。
その歌には
今夜の月を葬送するという
冷たい夢も、
織り込まれていた。
なぜ悲しみばかり
流れるのだろう?
この国の空気には、
涙よりも悲しい水分がふくまれ、
朝を迎えても凍ったままの
この国の空気には、
なぜ悲しみばかり
流れるのだろう?
夜が明けるまでに、
もう一度振り返る時間も、
もう、
この国には用意されていないというのに。