バカ可愛い、略してバカカワ
なりきり詩です。
場所もシチュエーションも違うけど
すこしだけ似たような経験、したかな?
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「バカ可愛い、略してバカカワ」
芝生広場の七夕飾りが
まだ残ってる
もりの街
大学を出てそれから初めて
今年でおよそ二十年ぶりかな
帰って来たよ、街よ
このあたりをよく
走っていたなぁ、あの頃は
ボートで漕いだこの川を
今日は懐かしい大橋の上から
眺めるだけだ
あの頃の僕が
君と向かいあって
笑い合ってるって
そこにみえるのはむろん幻の近景
君も、笑ってるね、
ふたりで過ごした一年半
ふたりでふたりが好きなうたを聴いて
夜も一緒に公園を歩いて
月の光があたたかいねって
秋の夕暮れも
冬の夜も
手をつなぎ合っていたね
教職課程をふたりで受けてたから
ふたりとも先生に成れればいいねって
ちっちゃな夢を語り合ったり
星が輝く夜のこと
浅い夜の賑やかな繁華なまちを連れあって
軽やかに歩いて
どんなに一緒にいても
時間はすぐに過ぎていったね
ふたりとも先生には成らなかったし
結局は卒業で
ふたりは疎遠になって
最後にあった君の住む町のちいさな駅で
僕は電車に乗って
君は駅に残って
少なくとも僕の方は
けっこう万感の想いを込めて
手を振った君もちいさく両手を胸で振って
笑い泣きをしていた
駅のホームの灯りじゃなく
君が放つ光りがいつまでも
ちいさくなっても君を照らして
いつまでも照らしてくれていてけれど
みえなくなったときそのとき
もう、君に逢うこともないのだと
一生ないのだろうと自覚したとき
頬が細く温かくなった
夜景もほとんどみえない黒い窓ガラスに
いつまでもドアの前に立っている僕の
顔は
歪んで涙をこらえようとしていた
けれどもこらえられなくて
歯を食いしばって、泣いていた
なんて想い出が押し寄せて来る、
有名な歌のおかげで
全国的に有名なお城の遠景をみて
僕の時間は少しだけあの頃に戻って
青葉の街路樹のてっぺんをみあげたのは
いきなり泣きそうになったからだ
なんだかバカみたいに
バカ、と云えば
『バカカワ』
って
云う言の葉を作って
君に送ったとき君は
あたりまえだけど訝しげな顔をして
なにそれ、って訊いてくれたから
「バカみたいにカワイイ、君の存在」
あなたこそ、バカね、って
言下に僕の言の葉に
否定的な感想を述べて笑ってた
その笑顔の明るいことと云ったら。
あゝ、そんなこと想い出すもんだから
なんとか耐えていたのに頬に
細くて温かい水が伝うのを
二十年ぶりに
感じた七夕を過ぎた今日、
君に二度と逢えなくなった知らせを受けて
衝動的にこの街へ来たのは
あの頃の君に逢うためだったんだ、って
初めてわかったんだ
でも、
この川にはボートに乗ったふたりの姿は
もうみえなくて。