亡霊の告白
好きなひとがいて
そのひとが
いるから日々の生活が輝くんだと
想っていたのは
ほんとうの慰めだっただろう
美しいひとで
その挙動を追うじぶんの目が
恥ずかしくなるくらい
明るく笑うひと
隣に座られたら
ドキドキする
なにか
甘い切り傷を心に刻むような
香りがするひとなんだ
なんだか
ストーカーってダメな犯罪なんだけど
あのひとのストーカーになら
なりたいと
これはもしかしてあまりよろしくない
告白ですね
一度だけ
ふたりきりで
夜に
並んで歩いたことがある
夢じゃないよ
けど夢心地だったよ
照れちゃって照れちゃって
言葉が出て来ないって
口の中もカラカラだったよ
笑顔で受け応えしようとしたけど
きっと
ちゃんと笑えてなかっただろうな
またあした
って
別れぎわの手の振り方が
とても可愛くて
その姿を切り抜いて待ち受けにしたいと
心底神さまに祈ったよ
カバンからスマホを取り出す衝動を
抑えるのに
時間がかかってしまって
ええまたあした
としか応えられなかった
そして別れてすぐにスマホを取り出して
慌ただしい雑踏の中
人波に紛れるそのひとの
凛としたちいさな後ろ姿を
震える指で画像におさめたよ
神さまのバカ
祈っても後ろ姿かよ
そして詩が生まれるのです
運命と
想わせやがって神さまに
祈った夢はただ消える、バカ
妄想が
罪なんだとは知っている
祈る心も、体も声も
命まで
獲ろうというのじゃないじゃない
心が罪なら、夢を裁けよ
雷に
撃たれた気がした純粋に
初めてみたとき、恋に、堕とすな
堕とすな、と
それだけ云いたい振り向かず
足早に去る、神よ、あなたに
悲しみの
数だけ愛してよいのなら
この街覆うと想うわ、この愛
ストーカーは犯罪です
そしてこういう詩も犯罪です
生まれ落ちた詩は
どこへゆけばいいのでしょう
土や茎や葉や花にならないままで
この街の風景に戻るとよいでしょう
この愛は
この街で初めて生まれた詩、ですから
トボトボと
消えてゆくのがよいでしょう
捩じ切って
消してしまおう今はまだ
なんとか間に合うはずの地獄を
ジンジンと
消えてゆくのがよいでしょう
夜みる夢を
みれなくなっても
あくる朝まで待たないで
ユラユラと
消えてゆくのがよいでしょう