破れた翼の一角幻獣
梅雨の雨、つづくつづく
翼の破れたユニコーンは
無人のビル街をゆらゆらと歩く
六月も終わりかけの
灰白色の空の下
だれもその背中には乗せない
無垢な幻獣は
美しい聖歌が聴こえる教会を目指して
その昔かけられた呪いのせいで
ゆきつくことのない神聖へ
ゆきたいのはそこで奇跡をみたいから
それは翼の大きな傷を
新生してくれる
奇跡なのかもしれない
教会に咲く花たちは
色とりどりの幸せを謳歌しているだろう
すべての季節を巡り歩き
最後の季節にたどり着いた花々の香り
まぼろしの果ての
色つきの白昼夢にも似て
極彩色のあたたかいやさしさへ
ユニコーンをいざなってくれる
長雨はしとしとと降り頻る
長雨を降らせる雲は
すき透るほど清く白く
天空の風にゆうるりと流れてゆく
けれど痛みを棄てられない破れた翼の傷
いだくように心を震わす悔恨とあすへの希望
長い一本の角を震わせて
ユニコーンが無人のビル街を歩いてゆく
傷ついたからだがアスファルトに怯えて
足をすくませながら
足下に血痕を残しながら
道端の自販機にからだをあずけている
生きるためにゆっくりと休んでいる。
いまはまだ匂わない夏の風が
吹きはじめるころには
やすらぎの中で流れていった
喜びの風が、
聖歌を遠くから運んで来るだろう
花に、願いを。
歌で、祈りを。
ユニコーンを癒してあげてほしいのです。
みあげれば雨は休んでくれているようで
雲の切れ間から純白の陽光が射している
傷ついた破れた翼に
耐え切れず顔を歪めながら
ユニコーンは聖歌の流れる教会へ向かう
雨で濡れている
水の世界を泳ぐように
悲しげな白昼の調べを
安心して忘れ去るように
ゆくべきところへ歩を進める
一歩、一歩、
アスファルトに足の温度を
刻むようにゆっくりと踏み締めながら
雲の切れ間に虹が
儚くも鮮やかな七色で現れたものだから
ユニコーンは翼を折りたたみ
この世界に、
やさしく拒絶され、
受け入れられない痛みを感じながらも、
みつめる瞳をそらしはしないで、
向かう。
幻獣のシルエットは
波間に浮かぶ人魚の髪を撫でたときみたいに
やさしく微笑んでくれるだろう
後悔と悲しみを浮かびあがらせた梅雨の長雨
小雨の陰で泣くのは
忘れられないあの頃の幸せを想い出してか、
ユニコーンを癒せないのが辛いのです。
そしてまだ幾日も
夏の風が強く吹く未来の輝かしい世界を
心待ちにしながら
梅雨の雨いつまでも
つづく、つづく、つづく、
無人の街に、降り、つづく。