車窓
列車から
窓の外をみると
鄙びた町がつづき
ときたま家々の向こうにみえる
冬の海は
灰色の鉛が横たわっているようで
波飛沫は白く鋭い牙のようにみえた
言葉はどうでもよくて
心だけに意味があるのだと
むかし君の語った言葉の意味を
考え直しているところだ
夜明けは君の云うとおりに
やって来たけれども
君のいない世界は
ただ暗く静かな海に
沈んでいるかのようだ
そんなとき
曇り空に浮かぶ
風船がみえた
風に吹かれて
この列車と同じ速度で
飛んでいる
ひとの声は聴こえなかった
ただ暗く沈んでいた私の心に
すこしだけ
明るいさざなみが立った
正直に云ってしまえば
私は
もう生きていても仕方がないと
想っていた
もっとわかりやすい世界へ
ゆきたいと
希っていたのだ
車窓からみえる家族連れの車に
ちいさな女の子の笑顔をみつけた
いつかの
君の笑顔にすこしだけ
似ていたかもしれない
なぜか
すこしだけ涙が滲んだので
私はゴシゴシと涙を拭った
気がつくと
雲の切れ間から陽が射しこんで
私の心にポッと光を灯してくれた
そして
家々の向こうにまた海がみえた
その海は
青く輝く広く明るい海だった