沖縄のバス
バスの中で揺れる胸が
沖縄の十年前を想い出す
観光客の人人の夜を
じゆうきままに悠久を
盛りあがりながら
揺蕩う
君をみうしなって走った
旅の終わりの直前の黄昏
胸だけがぐらぐらと揺れて
泣きそうになりながらみつけた
君は私を見ても知らんぷりだから
必死でこちらも知らんぷりをしたよ
涙目をみせないように
空を向いて歩いたよ
そのときみた白い雲の形と記憶は
永遠に私の人生を
彩りつづけるのだと
その瞬間わかったよ
イカスミみたいな心の闇が
魔法でもかけられたみたいに
晴れ渡った瞬間だったかな
そんな稲妻だった
ちょっとだけ忘れてしまったことにして
ちょっとだけ洗い流されたみたいな
けがれを優しく焼き切るみたいな
夕闇を裂く
極彩色の熱帯魚のTシャツを
力まかせに切り裂くみたいな
心の鍵を簡単に開けるもの
それが一番いい
君の
微笑みだったんだ
なんだったんだろうなあの瞬間
たぶん人生ってまだまだつづくんだけど
きっと人生で
二度と出逢えない
微笑みの君
静かで深い闇がしのびよってきて
そこからさきは
まるで崩れ落ちる白い塔のように
涙が出そうになるんだ
上を向かなきゃ
早く
上を向いてください君も
原寸大の君を
もう一度かならず抱きしめたい
想いだけがなにもしていない私を
大忙しで急かすから
黄昏のすぐそこまで来ている霧に
永遠の残像を
美しい無力な愛を写しだす
そうだな
それが世界で一番の
悲しいしあわせの希望なのかもしれない
だからそっと
やわらかい瞳の君の
名を呼ぶよ
とても呑気な調子でね
とても甘ーい感じでね
とても優しい悲鳴でね
そしたらそこに
すこし知ってる罪の三日月が
泣くのも我慢して
煌めいてくれるかもしれないだろ?
ただ
キラッ
って
君はなにも考えなくていいよ
むろん私もなにも考えないよ
ふたりの関係がいつか
なにかどこかを間違えて
砕け散る未来がかりにあったとしても
笑いながら大声で歌うかもしれないよ
笑うよ
それは心からの世界への希望だよ
あの瞬間でも
青かった奇跡のしあわせが
いつかたそがれて
そしていつしか闇を呼ぶのだとしても
私は驚かずに
そんなの簡単さ
と
軽めに楽しもうとするよ
行けない場所なんて
ないんだよ?
バスの中で揺れる胸が
沖縄の十年前を想い出す
観光客の人人の夜
じゆうきままに悠久を揺蕩う
研ぎ澄まされたふたりの時間と
まとわりつくほどのふたりの言の葉