ポエム
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たそがれ屋《改》





なにを売るといって
たそがれを売るなんて


渓谷に向かう旅に
棄てられない夢が痛みだす


指のあいだをすり抜けて
掬い上げられない八月の満月を
県境の小さな駅で
みあげつづけた空が白むまで

どこまでもつづく長い砂浜では

忘れられた
真新しいパラソルが

終わりかけの夏の風に
吹かれている

朝になったから
もう還らなくてはと
じぶんを信じられれば
それで済めばガラスの靴も
脱がずに生きてゆけるのに



そして
一編のうたが
たそがれの空を舞う


たそがれ風


棄てられない夢の

白いのど元には

なにも棄てられないと

知ってグラスで飲んだ天然水

掬い上げられない

波間に揺れる満月をみて

月の優しさに

遊べない夏の終わりを感じ

それで済めば

ガラスの靴を脱がずに済むのに

そんな物語が沈む

たそがれ風の砂の城に住む





そんな物語が沈む
たそがれ風の砂の家に
いまは
住んでいる


そんな景色を売るなんて
言葉を貶めるより
いけないと想う

だから
たそがれ屋ってやつは
それだから
たそがれ屋ってやつぁ
だれからも
だれからも








23/08/04 08:20更新 / 花澤悠



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