満月
その春の花は
春の花なのに
もう
季節は夏になったのに
蕾のままで
春の夜には咲けなかったので
ちいさな流れ星をいくつも
その蕾の中にたいせつに仕舞い込んで
花壇の隅っこで
暮らしているんだ
向日葵たちの眠る夜
夏の星空をみあげながら
それでたまには
蕾の中の流れ星たちが
シャンシャンと歌ったりする
戦いを避けたい
春の花は
それでいいんだ、それでいいんだと
降り注ぐ白い粉みたいな月光を
たったひとり浴びつづけながら
挑む目つきじゃなく
撫でつけるように
やさしく満月をみあげているんだ
夜空に浮かぶ海月みたいな
心の闇を洗ってくれる
損とか得の話じゃなくて
過去を棄て去るわけでもなくて
ただ、一心に、一心に
ただ満月をみあげているんだ