ポエム
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風花

それは春の横笛。

桜の下で女がひとり。
笛を吹いている。

暫く坂城継信は
引き込まれたように
見入っていた。

すると、
女は指先を止める。

まだ、旋律の余韻が
残っていた。

そして、女は言う。
「貴方の名は
継信ですね」

「な、何故……
某(なにがし)の
名を……」

女は、桜木を見上げた。

そうするや
風が吹き、
花が舞う。

継信は言う。
「貴女はいったい……」

女は
「私は、名乗るほどのものでは
ありません……」

女は哀しさを秘めていた。


継信と女は幾度か出逢ううちに、
いつしか想いが深まった。

しかし、女は名を教えてくれない。
そして、瞳を伏し目がちであった。

ただ、女は「知れば、貴方はもう
私に逢ってくれないでしょう」と
言っていた。

その言葉に継信は、
無理に聞こうとしなかった。


また、春が訪れた。

その折の夜、
女は継信に打ち明ける。

「私は貴方の一族に滅ぼされた
周防氏の嫡女、風花です。

心寂しき折、いつも慰めに
笛を吹いておりました。

しかし、心の底には仇に対す
憎しみが消えませんでした。

それでも、女の私に
何ができしょう……

ある日、とうとう私は
家元を飛び出し、無念のうちに
果てました。

死後、不思議な縁(えにし)により
貴方にお逢いしましたが、
今の私には何もできません。

何より、貴方を
慕ってしまいました……

もうここにはいられません」

不意に風花は笛を取り出し、
桜のもとへ。

旋律に、花が舞う。

風花は、
夜闇に溶けていった。

継信は呟く。
「風花……」


今でも、桜を想うと
あの旋律が聴こえる。

23/03/13 18:52更新 / 木内のり



談話室



■作者メッセージ

風花

本来、読みは
「かざはな」

でも、これは
「ふうか」と
読んで下さい

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