うんしょ、うんしょというかけ声
うんしょ、うんしょ。
あれは夏の日の出来事だった。
あの人は自転車の荷台に
精米した米をくくりつけて乗せ
カゴの中にスーパーの買い物袋を入れて
額に粒のような汗をかきながら
急な坂道を自転車をおして
登っていた。
幼い僕はそれを力いっぱいに
後ろからおしていたっけ。
うんしょ、うんしょと
二人でかけ声を重ね合わせながら。
坂の途中でアイスクリーム屋さんの
アンブレラが見えて
僕はねだって
アイスクリームを買ってもらった。
それは格別に美味しかった。
その時のかけ声が聴こえたのは
僕が夜更けに
パソコンのフォーマットを
チェックしている時だった。
忘れられていく時間のなかで
なぜ刹那にそれは木霊したのか。
今は単なるサラリーマンに
すぎない僕に。
うんしょ、うんしょ。
そのかけ声に励まされて
僕はここまで来たんじゃないのか。
気がつくと僕は
パソコンのデスクトップの画面越しに
涙していた。
一筋の涙がこぼれたのは
さっきLINEで
君の優しい声を聞いたせいかもしれない。