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「吾輩は猫である 名前はまだ無い」
      (『吾輩は猫である』より)


吾輩は猫である
名前はまだ無い

前世では、
ビールに溺れてこの世を去った猫である

ビールなど、
人に買われねば溺れず済むものだ

して、今世では野良として
生きようと思ったのである

幸いにも吾輩は、
野良猫の子として産まれた猫である

であるからして、
今度こそは天寿を全うする所存である


しかし今、母猫と別れて暫くの吾輩には、
とてつもなく大きな試練が振りかかっている


寒いのである
凍え死にそうなほどに寒いのである
暖めてくれるものはない

腹も減った
飢え死にそうなほどに腹も減った
餌を与えてくれるものもない

どうしたものかと凍えていると
一人の人間がやってきた

どうやら人の子供のメスのようである

そこで意識を失って
気付けば子供の膝の上に居た

人の暖かさに絆された吾輩は、
もう少し此処に居ることにした

子供の側にいれば酒も遠かろう

前世では役立たずと呼ばれた故
今世は面倒だが
空き巣を見たら起こしてやろう

予定外ではあったが、
吾輩は存外賢い猫なのである

今世こそは
天寿を全うしたいものである










吾輩は猫である
名前はタマである
20/04/04 16:59更新 / 星川詩織



談話室



■作者メッセージ
縁とは不思議なもので、もしこの竹垣が破れていなかったなら、
吾輩は遂に路傍に餓死したかも知れんのである。

『吾輩は猫である』より

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